所得代替率の見通し

所得代替率の見通し 厚生労働省マクロ経済スライドから
名目賃金上昇率3.2%を前提としたものであり、楽観的経済予見をベースに計算されている。

所得代替率の見通し~実際、「どのくらい」受け取れるのか

疑問「給付水準っていうけど、実際、どのくらいの年金額がもらえるの?」ガイド「額ではなく価値として、給付時の現役世代の平均手取り収入に対する割合で水準を定めています」

自分の公的年金は、いったいどのくらい給付されるのか。それは、多くの方が関心を持っている事柄だと思います。

その前に、まず公的年金の給付水準はどのようなものさしで考えるのか、それを見ていきましょう。

公的年金の給付水準は「所得代替率」で考える

所得代替率」とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か、を示すものです。

たとえば、所得代替率50%といった場合は、そのときの現役世代の手取り収入の50%を年金として受け取れるということになります。

ガイド「所得代替率」は主に厚生年金に対して使われています

平成26年財政検証の結果をみると、日本経済の再生と労働市場参加の促進が進む場合(ケースA~E)、「モデル世帯」における所得代替率は、将来にわたって5割を上回る見通しでした。一方、低成長の場合(ケースF~G)では、財政のバランスを取るようにすると5割を下回る見通しとなりました。

モデル世帯とは、

40年間厚生年金に加入し、その間の平均収入が厚生年金(男子)の平均収入と同額の夫と、 

40年間専業主婦の妻がいる世帯
としており、公的年金において単純に「所得代替率」といったときには、このモデル世帯での比率を意味します。

今回の財政検証の足下の給付水準となる平成26年度の所得代替率については、以下の図をご覧ください。

被用者年金一元化が実現することとなったため、所得代替率は一元化を前提とした一元モデルで示されます。

  • 従来モデル(旧厚生年金)
  • 一元化モデル(旧厚生年金+共済年金)

なぜ所得代替率が必要か

公的年金の特徴に、額ではなく一定の価値を保障するというものがあります。

年金の「金額」を固定すると、インフレや給与水準の上昇があったときに、年金の価値が下がってしまう恐れがあります(価値が減少することについては、「日本の公的年金は『賦課方式』」をご覧ください)。これを避けるために、公的年金ではモデル世帯と所得代替率を設定し、給付開始時の現役世代の手取り収入と比べてどの程度の年金額を受け取れるか、というものさしを設けているのです。

所得代替率は所得で異なる

所得代替率は、世帯の所得水準によって異なり、世帯の一人あたりの所得が低いほど高くなります。

高所得の世帯は個人年金や貯蓄などで老後に備えることができますが、所得の低い世帯は、現役時代のうちに十分な老後の備えをすることが困難かもしれません。

そのため、一人当たりの平均所得が高い世帯ほど所得代替率が低くなります。

このような背景を踏まえ公的年金では、世帯構成や現役時代の所得の違いを軽減するように設計されています。これを「所得の再分配」ということもあります。

所得が低いほど公的年金の所得代替率が上がる

ガイドもちろん、実際に支給される厚生年金は現役時代の収入に基づいて算出しますので、現役時代の所得が高い世帯の年金額が、所得の低い世帯の年金額より低くなるということはありません

所得の再分配って?

受給時の年金額は、現役世代の収入より差を少なくしている(厚生年金の場合)

上の図のように、現役時代の所得の違いに比べると、年金の受給額の開きのほうがゆるやかになっています。これは、基礎年金部分があるためで、基礎年金は納付期間が同じであれば収入に関わらず定額だからです。

また、所得の高い人ほど税金を多く払っていますが、その税金の一部は国庫負担として年金に投入され、受給者に還元されています。

このように、高所得者から低所得者に対して、間接的に所得の分配が行われているのです。

所得代替率の見通し

平成26年の財政検証のケースC、E、Gにおける、厚生年金の標準的な年金の給付水準の見通しは次の通りでした。

長男年金額や手取り収入が上がっていくのは、物価や賃金が上がっていくと考えられているからだな

長女基礎年金額も物価や賃金に合わせて上がっていくのね

このように、平成26年財政検証では平成26年度の所得代替率が62.7%ですが、マクロ経済スライドによる給付水準の調整が行われる結果、最終的な所得代替率はケースCで51.0%、ケースEで50.6%となる見込みです。一方、年金額は、平成26年度には21.8万円でしたが、平成55年度でみるとケースCで26.9万円、ケースEで24.4万円になる見込みです。

上の図の場合、マクロ経済スライドは平成27年度から開始し、報酬比例部分(厚生年金部分)はケースCで平成30年度、ケースEで平成32年度で終了し、基礎年金部分はケースC、Eともに平成55年度で終了する見通しです。

一方、ケースGの場合、マクロ経済スライドによる給付水準の調整によって、平成50年度に所得代替率が50%に到達する見込みです。仮に、その後も財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合、報酬比例部分は平成43年度、基礎年金部分は平成70年度で調整が終了する見通しで、所得代替率は42.0%、平成70年度の年金額は21.6万円となる見込みです。

マクロ経済スライドって?

マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。

マクロ経済スライドについて

なお、次の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、「調整期間の終了について検討を行い、その結果に基づいて調整期間の終了その他の措置を講ずる」こととされていますが、平成26年の財政検証はこれに該当していませんでした。
(次の財政検証の予定時期(平成31年度)における所得代替率は50%を下回る見込みとはなっていませんでした)

平成26年財政検証では、人口や経済については複数の前提を設定しており、それぞれの前提における最終的な所得代替率は次の通りでした。

次女人口と経済のパターンによっては、所得代替率が結構違っちゃうね!

賃金水準別の給付水準

平成26年財政検証において、モデル世帯の給付水準だけでなく、賃金水準が異なる世帯における給付水準をケースC、Eの場合で示したものが以下の図です。

年金額は世帯の賃金水準が高いほど上昇することを示しており、右上がりの直線(赤線)となっています。一方、所得代替率は世帯の賃金水準が高いほど低下するため、右下がりの曲線(緑線)となっています。

公的年金の負担と給付の構造

長女こうやってグラフで見ると、所得が上がる(右にいく)ほど所得代替率が下がるのが、よくわかるわね

長男でも、給付額を見るとやっぱり所得に比例するようになってるんだな

まとめ

  • 公的年金の給付水準は、一定の額ではなく「所得代替率」というものさしを使っている
  • 所得代替率とは、給付開始時における年金額の現役世代の手取り収入に対する割合
  • 所得代替率は、モデル世帯において経済が成長するケース(ケースA~E)では将来も5割を上回る見通し
    一方、低成長ケース(ケースF~H)では財政のバランスを取るようにすると5割を下回る見通し
    ※モデル世帯:40年間平均収入で厚生年金に加入していた夫と専業主婦の妻の世帯
  • 現役時代の所得が高いほど所得代替率は低くなり、所得が低いほど所得代替率は高くなる。公的年金制度が持つこのような機能を所得再分配機能という
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