18歳選挙権 学生らと考える

写真・図版18歳から投票? アンケート@法政大学 2015年5月11日

 選挙で一票を投じることのできる年齢が、20歳から18歳に引き下げられることになりそうです。18歳から有権者になることについて、法政大学市ケ谷キャンパスでの講義で学生たちと考えました。

 ■テキトーな投票、懸念

 「18歳選挙権」については、4月15日の「現代メディア論」の講義で取り上げました。ツイッターを使って意見表明を促し、導入の背景などを説明した後、アンケートを実施しました。出席した238人が回答(結果はグラフ参照)。引き下げについて「いいことだ」は126人、「よくない」は42人、「どちらともいえない」は70人でした。

 1年の臼井悠太郎さん(18)は「若者の政治への関心を高め、多くの民意を反映させることが大切。選挙権は今すぐほしい」と大歓迎です。「候補者が若者のことを考えた政策を掲げるようになり、若者にやさしい社会になる可能性がある」(3年・小林能拓さん)。「ブラック企業や過労死問題など、若者が具体的に向き合っている問題の解決になる」(3年・松本穂乃香さん)など、効果について考えた学生もいました。

 一方、18歳選挙権に否定的な人たちに共通したのは、「十分な判断ができず尚早」という考察です。3年の渡辺彩花さんは「まずは20代若年層の投票を促すことが先。現状がスカスカなのに選挙権を拡大してどうするのか」と厳しい見方です。

 「テキトー」という文字が目に飛び込んできました。1年女子の「テキトーに投票してしまう人が多くなる」という回答です。投票がいい加減になってしまう懸念を、多くの人が表明しました。この「テキトー」、選挙権引き下げの是非について「どちらでもない」と答えた人のマイナス評価にも見られました。

 そこから見えてきたのは、「社会的な責任」を強く意識するからこそ「テキトー」を心配する、真面目な思いです。2年の男子は「選挙は政治や世の中に意見を述べるようなもの。その分、社会的な責任がついて回る」。1年の男子も「参政権は責任を負うこと」という考えです。同じ1年の女子は「責任を持てないなら安易に投票してはいけない」と書きました。

 ■<Yes>若者の意見、反映される <No>知識なく、責任持てない

 <Yes>

 「少子高齢化のなかで若年層の意見をより反映させることにつながる」(3年・佐々木健介さん)

 「幅広い年代の意見が政治に反映されるし、若者の関心がおのずから高まる」(1年女子)

 「深く理解できていなくても、自分の生活について希望や不満を率直に言う人も必要」(2年男子)

 「社会人として働き納税している20歳未満の人にとっても権利であり義務である」(2年男子)

 「若者の意見が反映されにくい分、18歳に引き下げて投票できる人を増やした方がよい」(1年男子)

 「若いうちから国のことについて考えた方がよい」(2年女子)

 「若い世代に権利を与えることに賛成。今の高齢者中心の政治は問題」(3年女子)

 「政治への関心を増やすためにも行うべき」(3年男子)

 <No>

 「情報に弱い世代に権利を与えるのは危険。20代の投票を促すのが先決」(3年男子)

 「今私が18歳なんですけど、投票するほど知識もないし、責任も持てない」(1年女子)

 「若者よりオトナが多い以上、変わる気がしない」(3年女子)

 「友達やメディアに流されやすい。適当に投票する人は少ない方がよい」(4年女子)

 「18歳の時点で世の中のことなんて理解できない」(3年男子)

 <△>

 「選挙に行く人は増えると思うが、正しい判断ができるとは限らない」(3年男子)

 「面白半分とかなんとなくで投票する人が出てきてしまうのでは」(3年女子)

 「政治に関心と分別のある人だけが選挙に参加すればよい」(2年女子)=アンケートの記述から抜粋

 ■政治、もっと学ぶ必要

 今のままで18歳が自信をもって投票できるかどうか聞いたところ、3分の2が「自信をもって投票できない」と答えました。

 政治について学校で教わってこなかった――が理由です。全体の4分の1にあたる60人が「有権者教育の必要性」を指摘しています。「授業に模擬投票を採り入れては」といった具体的な提案もありました。

 政治への関心が薄い背景として「大学受験に必死で、ニュースなどを見る機会が減り、社会問題に疎くなった」などの声があり、受験の影響もうかがえました。それでも「しっかり学んだ若者が投票すれば、政治はもっとよくなる」が、多くに共通する思いのようです。政治について語りづらい風潮を変えることが重要だという意見もありました。

 「若い世代が政治に興味を持つような義務教育高等教育、社会づくりをしないと、18歳の無意味な投票で的確な人選ができない可能性が大だと思う」(4年・米良明日美さん)

 「今の高校の教育では現代の政治の仕組み、国外との関係などをほとんどの生徒は理解できないと思う」(1年男子)

 「高校などの授業カリキュラムを一新してから始めないと危険」(2年・大原祐太さん)

 「政治に興味があるというだけで異質に見られる。自分が主体になって物事を決める感覚を、初等教育でも家庭内においても根付かせていくことが大切」(2年・壺内真由さん)

 「ネットに書かれている虚偽の情報にだまされることは多い」(2年・岡田直樹さん)

 ■高齢者の優遇、感じる

 高齢者が優遇されているという意識も浮かび上がりました。「日本の政治は、誰が動かしているか」という問いに多くが「政治家」「官僚」などと答える中、24人が「高齢者」「老人」を挙げました。高齢者が政治を動かす既得権者と映り、「世代間のギャップ」を意識していることがうかがえます。

     *

 「社会保障から集団的自衛権の問題まで、ルールを決めるのは大人たちだが、将来的に負担を負うのは若者だ。少子高齢化の社会で、若者は常にマイノリティーの立場を強いられる」(2年・高野量子さん)

 「40~50代以上の世代の意見が重視され、若者はないがしろにされているように感じる」(3年女子)

 「高齢者の多くは時間やお金に余裕があり、私たち若年層のことよりも自分たちの損得を考えて政治家へ投票している」(3年女子)

 「自分たちの世代がこの先、しっかり年金を受給することができるのか不安があり、将来を見通せない人も多いと感じる」(2年・磯田和也さん)

写真・図版 ■自分の意見、価値がある Change.org日本版代表・ハリス鈴木絵美さん

 18歳選挙権を歓迎する声が半分だったことは驚きで、とても残念です。有権者の声が政策に結びついている実感がないからだと思います。まず政治の側が、有権者の声を政策に反映させた事例を意識的に示していくことが必要です。教育の場ではそうした事例を紹介しながら、投票の意味について考えていくことが大切だと思います。

 私が運営しているサイトは、身近なところから社会の問題に気がついた人が発信をして、署名集めができます。日本では3年目に入り成果が出始めているところですが、当初は意思表明をためらう人が多く、反応は慎重そのものでした。仕組みがあっても一人ひとりが関心をもたなければ何も変わらない。それは選挙も同じだと思います。

 自分の意見には価値があると思っている人が少ないことが問題です。有権者になる前に、自分の意見を磨く機会を増やし、自信をもてるようにする必要があります。まず学校で積極的に討論を採り入れる。家庭も大切。生活の視点から、時々の政治の話題を話し合ってほしい。

 政治にかかわることは、面倒なことです。けれども回答をみると、世代間格差などの問題は視野に入っています。社会の課題を「自分ごと」としてとらえることができれば、政治参加は広がっていくと思います。     *

 ◆コインの表と裏のような「テキトー」と「社会的責任」。学生たちは一票を投じる責任を重くとらえるからこそ、判断力に自信が持てないのだと思います。

 ここ5年ほど様々な大学の講義にかかわる仕事をしてきました。その中で、身の丈を基準に、慎重に物事を考える学生が多いと感じました。真面目だからこそ、いざ動いた時のパワーはすごいはず。

 「今回のような講義があれば、自分は考えられるということがわかって自信につながる」という意見がありました。18歳選挙権で、どんな可能性が広がるか。必要な環境整備は何か。議論の輪を広げながら、考え続けます。政治家にも参加してもらいながら。(北郷美由紀)

 ◆北郷と諸永裕司が担当しました。

 ◇来週18日は「われら中小企業」を掲載します。

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