2025年問題はそこに来ている

現在を生きる我々は、間接的に浪費を容認し、財政破綻への道をひた走っています。このようなことを続けていていては、子育て、介護、福祉はもとより年金の目減りで明るい未来はおぼつきません。

税制上の2025年問題、すなわち1.5人の若者が1人の老人を支える準肩車時代はそこまできています。時代感覚的には、団塊世代(1947~49年生まれ)が75歳以降の後期高齢者となる2025年はすぐそこに迫っています。 医療費と社会保障費の爆発的な増加と、医療・介護環境の逼迫(ひっぱく)が予想されています。今のままの税率と社会保障システムで、膨大な給付を現役世代が背負えるのかどうか、はなはだ疑問です。地道に行政による無駄使いをチェックしていくことが求められています。

社会保障給付費の内訳とその財源 ←現状は

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(教え2025年問題:1)都心の「介護難民」深刻に
2016年9月7日05時00分

 2025年には「団塊の世代」が全員75歳を超えて、国民の5人に1人に達しそうです。医療や介護の必要性も急増し、財政がもたずに現行の社会保障制度が行き詰まる恐れがあります。「2025年問題」と呼ばれる課題について、8回のシリーズでお伝えします。

東京都町田市で今年2月に開設されたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「清風ヒルズ金井」。オートロックの玄関を入ると、案内役のコンシェルジュが出迎え、ゆったりしたラウンジが広がる。バリアフリーで24時間対応の看護や介護の拠点も備え、都のモデル事業に認定された。

 ここに住む池上秀子さん(88)は「職員が家族のように接してくれる。(介護や食事など)全部ついているので安心です」と笑顔で話す。足を痛めて一人暮らしが難しくなり、隣の市から2月に移り住んだ。近くには娘夫婦が住み、よく会いに来てくれるという。

 サ高住は11年に政府が枠組みをつくった高齢者施設で、全国に20万戸超ある。少子高齢化や核家族化で高齢者だけの世帯が増え、自宅で過ごすことが難しくなっている人のニーズを受けて建設ラッシュだ。政府は昨年12月から建設補助金を1戸あたり原則100万円から120万円に上げ、整備を加速している。

 しかし、高齢者住宅のコンサルティングを手がけるタムラプランニング&オペレーティング(東京)の4月時点の調査によると、サ高住の月額費用は東京23区内で平均約20万4千円(家賃、サービス費、食費)と安くはない。神奈川・千葉・埼玉の3県の平均は約15万7千円で、茨城・栃木・群馬は約12万4千円。都心から離れるほど価格は下がるため、住み慣れた地域を離れる人が少なくない。

茨城県取手市の住宅型有料老人ホーム「ご長寿くらぶ取手藤代」は、デイサービス施設を併設し、日中は介護を受けられる。20人の入居者のうち東京から移り住んだ人が5人、千葉・埼玉からも1人ずついる。

 入居者の女性(81)は昨年11月に東京都内のグループホームから移り、月20万円近くだった利用料が15万円ほどに減った。長く都内で一人暮らしをしていたが、認知症の症状が重くなり、グループホームには昨年8月に入ったばかり。手取りで月10万円ほどの年金と息子たちの支援では賄いきれなくなった。都内に住む次男(53)は「道が混むと車で2時間かかり、少し不便。だけど、この金額で入れる施設は近くで見つからない」という。

 この有料老人ホームを運営するアーバンアーキテック(茨城県)は、北関東を中心に25カ所ほどの高齢者住宅を展開。川又則夫社長は「普通の人の年金では都心部で老人ホームに入るのは難しく、今後はますます『介護難民』があふれてくる。その受け皿を増やしたい」と話す。5~6年後までには100カ所に増やしたい考えだ。

 ■社会保障給付、15年度の1.3倍

 一人暮らしの75歳以上は2025年で447万人に上る見通しで、15年の1・4倍になる。認知症の高齢者も12年の462万人から25年には700万人前後に増えるとみられている。

 民間有識者でつくる「日本創成会議」が15年に公表した試算では、首都圏の1都3県では介護サービスの利用者が25年までに45%増え、約13万人分の介護施設が不足するという。家族を頼れず、地域のつながりも薄れるなか、高齢者の住まいの確保は大きな課題だ。

 75歳以上の急増は、社会保障費にも直結する。75歳以上は「後期高齢者」という枠組みで医療費の自己負担が原則1割に抑えられる一方、支出は大幅に増える。1人当たりの平均で医療費は65~74歳の1・6倍、介護費は9倍かかる。年金なども含めた25年度の社会保障給付費は、15年度の1・3倍の148兆円に達すると推計されている。

 こうした財源は6割が保険料で、4割が公費(税金)。社会保障制度を維持するため、自己負担を増やしたり高齢者向けのサービスを縮小させたりする議論が各分野で本格化する。慶応大学土居丈朗教授(財政学)は「ここ1、2年のうちに薬の多剤投与(必要以上に多くの薬を処方すること)の是正などの歳出改革を進めて、『筋肉質』な社会保障財政にしておくことが必要だ」と指摘する。(生田大介)


病院から在宅、進むの?(教えて2025年問題2)

2016年9月8日07時22分

写真・図版

東京都渋谷区のマンション1階の一室に、小さな診療所がある。ドアにかかる「えびす英(ひで)クリニック」という看板は見落としそうだ。常勤医は松尾英男院長(49)1人。患者の自宅に出向いて診察する在宅医療にほぼ特化しており、患者からの連絡には原則24時間いつでも対応する。

 「具合はどうですか」

 近くに住む104歳の女性患者に、松尾さんが声をかけた。開業した2001年から訪問を続けている。女性は年に数回程度、肺炎を起こすことがあり、息子(65)は「具合が悪くなったら先生がすぐ来て、病院に行くより早く治療をしてくれる。ありがたいです」と話す。

 外来を中心としながら在宅にも力を入れる施設も含め、24時間体制の「在宅療養支援診療所」は14年時点で約1万5千カ所あり、5年間で2割以上増えた。国民の半数以上が自宅で最期を迎えることを希望しているという調査結果も背景に、「病院から在宅へ」という方向性で、政府が診療報酬を手厚くするなどして誘導してきたためだ。

 全国の医療機関の病床数は13年で134万7千床。政府は昨夏、高齢化に伴うペースで病床を増やせば、25年には152万床が必要になるとの試算を発表。ただ、医師や看護師といった人手や財政の面から病床を増やすことは難しい。そこで、症状が比較的軽い30万人前後の入院患者を病院ではなく自宅や高齢者施設など「在宅」での療養に移すことで、病床は115万~119万床程度に減らせるという見通しを示した。

 政府は医療費抑制などのため、入院日数の短縮を促している。15年の一般病床の平均入院日数は16・5日で、10年間で3・3日短くなった。ただ、東京都足立区の在宅医は「昔に比べて、症状が重い人も病院がどんどん退院させている」と指摘。全国どこでも、在宅で病院並みの医療を続ける仕組みをつくる必要性に迫られている。

 だが、特に地方は医師数が都市部ほど多くないこともあり、病床から出される患者の受け皿となる在宅医療の仕組みづくりが進んでいない地域も少なくない。

 東京大高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は「在宅医療は各地で先駆的な医師らが進めてきたが、まだ取り組みに大きな差がある。自治体の熱意の差も大きい。地域偏在や質のばらつきをどうなくすかが課題だ」と話す。

<アピタル:ニュース・フォーカス・特集>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(生田大介)


(教えて!2025年問題:3)「介護離職ゼロ」どう実現?

2016年9月9日05時00分

東京都港区の畠山清美さん(46)は先月、両親の介護のため、看護師として勤めていた個人病院を退職した。常勤で1年半働いたが、母親(78)が脳出血で倒れた1年半前に週2回の非常勤に変更。さらに父親(75)が認知症の診断を受け、介護の負担が増えた。

 年に5日取れるはずの介護休暇を病院に申し入れたら「人手が足りない」と断られた。年93日使える介護休業ではなく、少し休んだ後に仕事と両立させたかったが、自主的に退職。ハローワークにも通ったが、「小さな職場では、休暇や休業を取ることすら難しいのが現実」と訴える。

 介護の必要性が高くなる75歳以上の高齢者は2025年に現在の1・3倍の2200万人へ急増し、家族の負担も大幅に増える見通しだ。仕事と介護を両立させる仕組み作りが不可欠だが、介護を理由に離職する人はいまでも毎年、10万人ほどにのぼる。

 畠山さんのように小規模な職場では介護との両立に理解が得られないケースがある一方、従業員側が休暇の申し出などを躊躇(ちゅうちょ)する場合も多いという。介護離職の経験者が1月に立ち上げた一般社団法人「介護離職防止対策促進機構」の和氣(わき)美枝代表理事(45)は「介護のことを言わず、自分で抱え込んでしまうケースも多い」と指摘する。

総務省の12年の調査では、働きながら介護をしている約240万人のうち、8割以上の人は介護休業や介護休暇などの制度を全く使っていなかった。

 和氣さんは「企業は社員に対し、『介護が必要になったら支えるので、安心して報告して欲しい』というメッセージを出すべきだ」という。デイサービスやホームヘルパーなどをうまく利用すれば、離職せずにすむ人も少なくないとみる。

安倍政権は「介護離職ゼロ」を掲げ、対策を急ぐ。来年1月には、社員が介護のための残業免除を請求できる制度が始まる。介護目的の短時間勤務やフレックスタイム制なども最大3年間使えるようになる。企業は応じる義務があるが、罰則はなく、実際にどこまで利用が広がるかが焦点だ。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子・主席研究員は「育児や介護を担う社員が増えるなか、全社員を対象に長時間労働を是正し、休暇を取りやすくするなどの改革を進める必要がある」と話している。(生田大介、水戸部六美)


介護職の不足、解消できる?(教えて2025年問題4)

2016年9月10日07時33分

写真・図版

東京都北区で9日、福祉関係の合同就職説明会が開かれた。区などの主催で、近隣の介護事業者など41のブースが並んだ。だが、個別面談にのぞむ求職者はまばらで、参加者は計150人ほど。初めて開いた7年前の半数程度だった。

 ブースを出した訪問介護主体の「やさしい手」(目黒区)はヘルパー不足で、派遣の要請に応じられないこともある。後藤まさみ・上板橋店長は「面接に来てくれても、『仕事の大変さに収入が見合わない』と契約に至らないケースも少なくない」と漏らした。

 介護職員は2013年度で約171万人。高齢化に伴って最近10年間で2倍程度に増えたが、需要の伸びに追いついていない。

有効求人倍率(ヘルパーのぞく)は12年度の1・90倍から15年度は3・97倍に上昇。25年には介護の必要性が高まる75歳以上の人がいまの1・3倍にあたる約約2200万人に達し、介護職員が約38万人分足りなくなると試算されている。

 そこで政府は介護職員の人材確保策に力を入れる。

平均賃金は、09~15年度の間に介護報酬の改定などで月4万3千円相当分を上積みしたとされる。来年度はさらに1万円ほどの引き上げをめざす。それでも厚生労働省の調べでは、15年の全産業の平均賃金が月額30万4千円のところ、ホームヘルパーは21万1千円、ケアマネジャー25万1千円と、なお低い。介護保険料と税金で賄う人件費の大幅増は簡単ではない。

 また、資格を持ちながら介護職に就いていない「潜在介護人材」を活用するため、2年働けば返す必要のない最大20万円の貸付制度も創設。全国に120万人いる中高年ボランティアに介護の仕事を担ってもらう仕組みも検討する。

 ただ、少子化で働き手となる年齢層(15~64歳)の人口が減るなか、介護人材を大幅に増やすことは難しい。そのため海外からの人材を本格的に導入する検討を求める意見も出ている。

 今も経済連携協定(EPA)に基づきアジア諸国から受け入れているが、あくまでも国際交流などが目的だ。本格的な受け入れへ、在留資格に「介護」を加えることが検討されている。西口守・東京家政学院大教授は「優秀な外国人留学生に国内でしっかり勉強してもらい、介護を担う人材と位置づけていくべきだ」と話す。

<アピタル:ニュース・フォーカス・特集>

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(生田大介)


(教えて!2025年問題:5)認知症急増、支える仕組みは?

2016年9月14日05時00分

千葉市にある「かしわど訪問看護ステーション」の山崎愛看護師は、近くの住宅街で一人暮らしをする男性(82)の自宅を訪れた。

 男性は認知症で、日付が分からなくなることがあるという。山崎さんはカレンダーに血圧の薬をはりつけ、「ちゃんと飲んでね」と声をかけた。同行した作業療法士が、「ふらつく」という男性の足の動きを確認し、リハビリも行った。

 山崎さんらは「認知症初期集中支援チーム」で、認知症が疑われる人を訪ね、医療や介護につないで症状の悪化を抑える。6月から半年間の限定で、多い時は週に数回訪問。生活環境の改善も提案する。「色々な人が部屋に出入りする」など男性の幻覚の訴えを聞いた大家が市に連絡し、支援が始まった。山崎さんは「本人が病院に行きたがらない場合も多い。家族に接し方を助言したり、本人と距離を縮めたりして受診につなげています」と話す。

 2025年には、全国の高齢者の5人に1人にあたる約700万人が認知症になる見込み。認知症のリスクを高める糖尿病患者が増えた場合は、より多くなる。政府は18年度までに初期集中支援チームを全市町村で発足させるなどして、対応を進める考えだ。

認知症の人には、地域で支える仕組みが重要だ。認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長は「特に初期段階では、人生経験をいかして若手を補う仕事や子どもに勉強を教えるボランティアなど、できることはたくさんある。それを社会が後押しすることで、状態が安定する人も多い」と指摘する。

 「認知症カフェ」のような交流の場は各地で広がりつつある。認知症の人たちの訴えを直接、政策に反映する取り組みも進む。9年前に認知症と診断された藤田和子さん(55)は「認知症の人をサポートする大きな仕組みも大事だが、みんなが身近な認知症の人を見捨てずに、小さなことでも関わり続けることが必要だと思う」と訴える。

 一方、政府は財政難を背景に、要介護度が軽めの人向けの調理や掃除などの生活援助を介護保険の適用から外すことを検討する。ただ、認知症の人は介護度が軽くても、徘徊(はいかい)するなどし家族の負担が増しやすい。「認知症の人と家族の会」の阿部佳世事務局長は「自宅での介護を難しくする動きだ」と懸念する。(生田大介)


みとりの場はどうなる?(教えて2025年問題6)

2016年9月15日07時01分

写真・図版

神奈川県大和市の女性(68)は6月のある朝、同居する母親(98)の様子を見に行くと、呼吸をほとんどしていなかった。慌てて呼んだのは救急車ではなく担当の訪問看護師。在宅医も駆けつけた。心筋梗塞(こうそく)だったが、命はとりとめた。

 母親は昨春、うっ血性心不全を起こした。3週間入院した後、在宅でのみとりに力を入れる訪問看護ステーション「楓(かえで)の風」(東京都)などと契約。できる限り家で療養すると決めた。

 女性は「病院で延命治療は受けさせたくない。亡くなるなら50年慣れ親しんだ家が一番。母も入院すると『家に帰りたい』と言う」と話す。

 急速な高齢化で、年間の死亡者数は2015年の129万人から25年には154万人へ増える見込み。今は8割の人が病院で亡くなっているが、救急車で運ばれる高齢者が増えれば救急機能がパンクし、病床が不足する恐れもある。「みとりの場」の確保は課題だ。

 国民の多くが自宅で死ぬことを望んでいるという調査結果もあり、国は在宅医療に対する診療報酬を手厚くし、在宅でのみとりを後押しする。病院と診療所による在宅のみとりは、14年で月8996件。3年前の1・5倍の水準になった。都市部を中心に自宅で亡くなる人は増加傾向だ。

 ただ、みとりには家族らの支えが必要だ。厚生労働省による08年の調査で、最期まで自宅療養できるか聞くと「実現困難」が66%を占めた。複数回答による理由は「介護する家族に負担がかかる」が最多の80%。介護保険サービスもあるが、「主役は家族。一定以上の覚悟が必要」(都内のケアマネジャー)という。

 自宅での生活が難しくなった場合の受け皿となる施設の対応も進む。15年には特別養護老人ホーム有料老人ホームなどで約8万人が亡くなり、10年前の3・5倍に増えた。最近は「サービス付き高齢者向け住宅」も急増。ただ、みとりをする体制が不十分な施設も少なくないという。

 自宅や高齢者施設でのみとりを増やす動きは、終末期に管で胃に直接栄養を入れる「胃ろう」などを控え、口から食べられなくなったら徐々に自然な死を受け入れる、という考え方の広まりも影響している。

 全国在宅療養支援診療所連絡会の太田秀樹事務局長は「人生の最期は、住み慣れた『生活の場』で迎えるのが本来の姿だ。いまだに根強い『病院に行けば何とかなる』という社会通念を変えていく必要があるのではないか」と話す。

<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>

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(教えて!2025年問題:7)保険料と税の負担、もっと上がる?

2016年9月16日05時00分

 「やっぱり高いな。これだけ高いと、働く気をなくしてしまう」

長野県松本市の40代の男性塾講師は7月、市役所から届いた通知書を見て肩を落とした。男性の年収は約200万円。国民健康保険(国保)の保険料は年間約20万円で、前年度より2万円ほど高くなった。市が保険料を平均で13・95%引き上げたためだ。

 市によると、保険料を多く払う現役世代の加入者が減り、医療費をよく使う高齢者の割合が高くなって保険財政が悪化。引き上げは6年ぶりで、県内で最も保険料が高い自治体になる見込みだ。

 国保は自治体が運営し、自営業者や非正規労働者らが加入する。高齢化などの影響で保険料の引き上げが続き、2025年には全国平均で月額9300円程度になると試算されている。

 主に大企業の社員らが加入する健康保険組合の15年度の平均保険料率は、初めて9%を超えた。全国組織の健康保険組合連合会によると、1人あたりの保険料は年約48万円(労使で負担)になり、5年前より9万円ほど増えた。製薬技術の進歩で、高額な薬が多く出ていることが影響したという。

総務省の15年調査では、勤労者世帯が払う年金や医療、介護などの社会保険料は平均月約5万1千円で、10年前より9千円近く増えた。実収入に対する割合は9%から11%へ上昇。家計を圧迫し、消費意欲を冷やしているとの指摘もある。

 しかし、保険料の負担が増えても社会保障給付費の伸びには追いついていない。足りない分は税金による公費で賄っており、給付費の財源に占める保険料の割合は1990年度には6割だったが、今は5割ほど。その公費の多くは借金で、将来世代に負担をつけ回ししている。

財務省によると、国民所得に占める税と社会保障をあわせた負担割合(国民負担率)は15年度の見通しで43%。米国の31%(12年実績)より高いものの、50~60%程度が多い欧州に比べると低い。

 小塩隆士・一橋大教授(公共経済学)は「次の世代へツケを残さないよう、公費負担の赤字部分は増税などで補っておく必要がある。保険料も全体としては引き上げていかざるをえないが、低所得者への負担軽減策を考える必要がある」と指摘する。

 (生田大介)


(教えて!2025年問題:8)医療や介護の費用、どう抑制?

2016年9月17日05時00分

写真・図版社会保障費の伸びを抑えるため負担増・給付減が続く 先月19日に開かれた社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の部会で、白熱した議論が行われた。

 「現役世代並みの収入や高額な預貯金がある高齢者には、さらに負担して頂く必要がある」「利用者に過度な負担となり、必要なサービスを遠ざけて重度化を招くデメリットがある」

 議論の焦点は介護保険の自己負担をさらに増やすかどうか。症状が比較的軽めの要介護1、2の人を対象に、掃除や洗濯などの生活援助サービスを介護保険の枠外にすることも検討。こうした負担増やサービス減の議論は毎年秋から年末にかけて恒例となっている。

 政府が介護や医療、年金などへ支出する社会保障費は、高齢者が増えているので毎年6千億~7千億円分が自然に増える。安倍政権は増加分が年間5千億円程度になるように抑制している。毎年の政府予算は3割以上を借金で賄っており、社会保障費の伸びを抑えるのは将来世代へのツケ回しを少なくする狙いだ。

 このため負担増やサービス減が必要になり、財源にあてるはずだった消費増税が2回先送りされたことも拍車をかけている。

 一方、介護や医療に頼らないように、運動や食生活の改善などで病気の予防に力を入れて元気で過ごせる「健康寿命」を延ばそうという動きも出てきた。

 7月に東京都内で開かれた日本健康会議で、共同代表の三村明夫日本商工会議所会頭は「超高齢化社会に突入したなか、日本の持続的成長のためには健康寿命の延伸と医療費の抑制が必要だ」と強調。その後、青森県の「減塩」、茨城県の「いきいきヘルス体操」、埼玉県の「糖尿病の重症化予防」といった取り組みが紹介された。健康会議は経団連日本医師会全国知事会などが昨年立ち上げた組織で、こうした取り組みを他の自治体にも広げていく。

 健康会議の実行委員も務める辻一郎・東北大教授(公衆衛生学)は「健康寿命を延ばすメリットは、医療・介護費を減らせるだけではない。本人が地域の担い手として活躍し、家族も介護しないですむ時間を仕事などにあてられる。人口減が進むなか、社会の活力を高める意味でも必要な取り組みだ」と話す。(生田大介)


(教えて!2025年問題 識者に聞く:上)地域包括ケア、身近な成功モデルを 遠藤英俊さん

2016年9月21日05時00分

 病気になっても介護が必要になっても住み慣れた土地で暮らし続けられるように、国は医療や介護、予防、生活支援、住まいを一体的に提供する「地域包括ケア」の整備を進めています。団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年までに、全国にくまなく広げる目標を掲げています。

 5割以上のお年寄りが自宅での最期を望んでいることを踏まえると、方向性は正しい。でも、実現はそう簡単ではありません。

 高齢の患者やその家族に地域包括ケアでやろうとしている内容を尋ねると、知っているのは3~4割程度。まだ自分に関わることとして実感できない人が多いと感じます。

 家で暮らし続けるには在宅医療が欠かせません。国は拠点作りのモデル事業を進め、診療報酬を手厚くして強化を図ってきました。

 ただ、在宅での看取(みと)りをしている医療機関は全体の約5%にとどまっています。施設への通い・宿泊と訪問介護を組み合わせて使える小規模多機能型居宅介護サービスや24時間対応型の訪問サービスのように、融通が利いて在宅生活を支えやすい介護保険のサービスもあまり増えていません。小さな地域単位で見れば充実してきたところもありますが、大きな流れになっていない理由を分析し、手を打つ必要があります。

 よく起こりうるのは、家族が在宅介護に限界を感じて施設に入れるケースです。特に認知症の場合、排泄(はいせつ)の失敗や昼夜逆転などに家族が疲れ果ててしまう。常に見守りが必要なのに、デイサービスから帰宅するまでに家族が仕事から戻れず、空白の時間が生じるといった事態もありがちです。様々な状況に対応できるように介護保険サービスを充実させ、情報提供も含めた家族のサポートを一層進めなければいけません。

 地域包括ケアでは、例えば電球の取り換えやゴミ捨て、雪かきなど、介護保険でカバーしきれない部分をボランティアが支えることが織り込まれています。ボランティア講座の参加者に継続的な働きかけをするなど工夫の余地はあります。

 どうしたらいいのかわからない市町村から相談を受けることもあります。遠く離れた市町村を「優れたモデル」と例示されても具体的なイメージがわかず、戸惑っている様子です。こうした市町村の問い合わせに対応できるような「身近な成功モデル」を各都道府県に1、2カ所ずつ作れば、取り組みが加速するのではないでしょうか。

 (聞き手・友野賀世)

     *

 えんどう・ひでとし 日本老年学会理事 1954年生まれ。国立長寿医療研究センターの長寿医療研修センター長・内科総合診療部長。専門は老年医学と認知症。医療・介護関係者や市民向けに認知症や在宅医療に関する研修を実施している。


身近な成功モデルを(教えて2025年問題・専門家編)

聞き手・友野賀世 2016年9月21日08時28分

 病気になっても介護が必要になっても住み慣れた土地で暮らし続けられるように、国は医療や介護、予防、生活支援、住まいを一体的に提供する「地域包括ケア」の整備を進めています。団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年までに、全国にくまなく広げる目標を掲げています。

 5割以上のお年寄りが自宅での最期を望んでいることを踏まえると、方向性は正しい。でも、実現はそう簡単ではありません。

 高齢の患者やその家族に地域包括ケアでやろうとしている内容を尋ねると、知っているのは3~4割程度。まだ自分に関わることとして実感できない人が多いと感じます。

 家で暮らし続けるには在宅医療が欠かせません。国は拠点作りのモデル事業を進め、診療報酬を手厚くして強化を図ってきました。

 ただ、在宅での看取(みと)りをしている医療機関は全体の約5%にとどまっています。施設への通い・宿泊と訪問介護を組み合わせて使える小規模多機能型居宅介護サービスや24時間対応型の訪問サービスのように、融通が利いて在宅生活を支えやすい介護保険のサービスもあまり増えていません。小さな地域単位で見れば充実してきたところもありますが、大きな流れになっていない理由を分析し、手を打つ必要があります。

 よく起こりうるのは、家族が在宅介護に限界を感じて施設に入れるケースです。特に認知症の場合、排泄(はいせつ)の失敗や昼夜逆転などに家族が疲れ果ててしまう。常に見守りが必要なのに、デイサービスから帰宅するまでに家族が仕事から戻れず、空白の時間が生じるといった事態もありがちです。様々な状況に対応できるように介護保険サービスを充実させ、情報提供も含めた家族のサポートを一層進めなければいけません。

 地域包括ケアでは、例えば電球の取り換えやゴミ捨て、雪かきなど、介護保険でカバーしきれない部分をボランティアが支えることが織り込まれています。ボランティア講座の参加者に継続的な働きかけをするなど工夫の余地はあります。

 どうしたらいいのかわからない市町村から相談を受けることもあります。遠く離れた市町村を「優れたモデル」と例示されても具体的なイメージがわかず、戸惑っている様子です。こうした市町村の問い合わせに対応できるような「身近な成功モデル」を各都道府県に1、2カ所ずつ作れば、取り組みが加速するのではないでしょうか。

    ◇

 8回のシリーズで取り上げた「2025年問題」について、浮かび上がった課題にどう向き合えばよいのか。3人の専門家に聞きました。あすは住まい不足について取り上げます。

<アピタル:ニュース・フォーカス・特集>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(聞き手・友野賀世)


(教えて!2025年問題 識者に聞く:中)高齢者の住まい、既存施設活用を 田村明孝さん
2016年9月22日05時00分

 介護の必要度が高い人にとって最期まで安心して暮らしやすいのは、特別養護老人ホーム認知症グループホーム介護付き有料老人ホームなど介護のケアが手厚い施設です。しかし、決定的に不足しています。

 近年は「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)が急増しています。ただ、これはあくまでも住宅であって、施設とは異なり外部の介護サービスを使う必要があります。最近は入居者が集まらず、空き室率が高いサ高住も出てきています。

 高齢者の住まい不足を背景に、日本創成会議は昨年、とりわけ高齢化が深刻な東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)から地方への移住促進を提言しました。ただ、私はこのような考え方には懐疑的です。

 高齢者は、できれば住み慣れたところで暮らし続けたいと思うでしょう。都会から移住する受け皿のため、新たに施設を造ろうという自治体はそんなにたくさん出てくるでしょうか。やはり、都市部の住まい不足は、都市部で解決していく必要があると思います。

 施設や病院を造り続けることは難しく、国は在宅で医療や介護を受けられる体制づくりを進めています。ただ、そのサービスもまだまだ不足しています。一人暮らしで比較的介護の必要度が高くなると、在宅生活はかなり厳しく、その環境整備を進めるにはかなりのコストがかかります。

 そこで私は、既存のインフラを活用していくしかない、と考えています。

 たとえば「介護付き」ではない有料老人ホームやサ高住が、高齢者施設と同じように定額で包括的な介護サービスを受けられる「特定施設」の指定を受けやすくすることは一案です。特定施設の指定を受けたい事業者はたくさんいますが、行政が「総量規制」をしているため、増えていないのが現状です。

 また、東京圏のサ高住は家賃が高くて入りにくいという人も多い。現在、国はサ高住の整備費に補助を出していますが、それは「造る側」のメリット。本当は利用者のメリットにつながらなければいけない。整備費への補助を切り替え、所得が低い人に家賃を補助することも考えられます。

 住まいの不足を完全に解消するのは難しいかもしれません。でも、こうした施策を積み重ねることで、こぞって地方に脱出しなければいけないような危機的状況は回避できるのではないでしょうか。

 (聞き手・立松真文)

    *

 たむら・あきたか 高齢者住宅経営者連絡協議会事務局長 1952年生まれ。タムラプランニング&オペレーティング代表取締役。高齢者住宅の企画、調査、コンサルティング、高齢者住宅への入居相談を手がける。北欧の高齢者住宅事情にも詳しい


(教えて!2025年問題 識者に聞く:下)「誰もが受益者」に、世代間分断防げ 井手英策さん

2016年9月24日05時00分

 「2025年問題」という問いの立て方自体が鋭い対立を招きかねない、と危惧しています。

団塊の世代が全員75歳以上になる25年以降も高齢者の医療や介護を維持し、現役世代の負担を増やすのか。あるいは生活に苦しむ現役世代に配慮し、サービスを削って高齢者の負担を増やすのか。いずれにせよ、高齢者と現役世代は分断されるでしょう。

 「このまま社会保障費が膨らんだら財政が破綻(はたん)する」というフレーズをよくに耳にしますが、これは恫喝(どうかつ)です。予算に総枠をはめて危機をあおるやり方は、もう終わりにすべきです。

 財政は本来、人を幸せにするためのもので、人を恫喝したり分断したりするためのものではありません。原点に返って、「何が必要なのか」を考えるところから始めませんか。

 高齢者にとくに必要なのは医療や介護です。現役世代では、教育や子育て、仕事に関わることが挙がるでしょう。高齢者向けの政策も現役世代向けの政策も、両方やればいいのです。全員のニーズを満たす「必要原理」に立ち、所得制限を設けず、世代間の受益が調和した政策パッケージをつくることが大切。いろいろな状況にある人たちがそれぞれに尊厳を守られる政策になっていれば、敵対の構図を作らずにすみます。

 そうすると「財源はどうするんだ」という批判が出てくるでしょう。でも、必要原理に立った政策は、負担に対する抵抗も減らします。負担すれば、自分にもメリットがあるわけですから。増税への抵抗を和らげることは、財政再建にとっても不可欠の条件です。

 その意味では、消費税の扱いは再考が必要です。社会保障目的で税率10%への引き上げは決まりましたが、実際に社会保障の充実にあてられるのはたった1%分で、ほとんどが貧困対策です。14年に5%から8%に上がった後、どれだけの人が充実を実感できたでしょうか。これでは10%への引き上げに抵抗が強まって当然。充実に使う分をもっと増やすべきです。

所得税相続税の課税範囲を広げるなど、消費税以外の税のあり方も合わせて考えることも欠かせません。政策も税も、言い換えれば受益も負担も「誰かが」ではなく「誰もが」に切り替える。そして世代間や受益の有無による分断をなくしていくことが、安心して生活できる社会づくりに何よりも重要なのです。

 (聞き手・友野賀世)

■いで・えいさく

 1972年生まれ。専門は財政社会学。日本銀行金融研究所客員研究生、横浜国立大学大学院助教授などを経て現職。著書に「18歳からの格差論」、「分断社会を終わらせる」(共著)などがある。


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