●18歳の1票


統一地方選<2 二元代表>議会と首長は両輪…対等で一定の距離が必要
統一地方選では、知事や市区町村長と、それぞれの議会の議員選挙が一緒に行われる自治体も多い。首長と議会について改めて考える機会となる。本来はどのような関係が望ましいのだろうか。首長選、議員選で支持する候補者を決める上でも、地方政治の仕組みを知っておくことが大切だ。  
 地方政治の仕組みは国の政治と比べると理解しやすい。

 国政は議院内閣制だ。有権者の市民は国会議員を選挙で選び、国会は通常、第1党の党首を首相に指名する。第1党は「与党」として首相を支え、一体で国政を進める。

 地方政治は二元代表制だ。有権者は地方議会の議員を選挙し、首長も別に選ぶ。議会と首長との関係は「車の両輪」に例えられる。両輪が同じ大きさで一定の間隔を保っていれば車は真っすぐに進む。どちらかが大きかったり、一体となった一輪車だったりすれば不安定で前進は難しい。

 ■市長提案99%可決

 首長は議案を議会に提出し、予算を調整・執行する権限を持つ。こうした議案や予算案の可否を決めるのは議会だ。二元代表制のもと、別々に選挙された首長と議員で作る議会は対等であることを地方自治法は定めている。より良い政治に向け、協力だけでなく、けん制し合うことも必要だ。

現実はどうか。全国市議会議長会によると814市議会(東京23区を含む)の市長提出議案は2017年で計9万649件だった。原案通りの可決・同意などは8万9836件で99%を占め、修正可決は185件、否決・不同意などは204件だった。議員提出議案は計7365件、原案可決などは81%の5930件だ。市長提出議案が、件数、原案可決率とも大きく上回る。

 ■迫られる改革

 事務局スタッフの不足など地方議会共通の悩みを抱えつつ、愛知県犬山市議会は改革に取り組んでいる。議長のビアンキ・アンソニーさん(60)は市教育委員会で働いていた当時に日本国籍を取り、03年から市議を務める。「与えられた権限を十分に行使していない議会では行政のやりたい放題になってしまう」とし、議会が会派というグループの枠を超え、一体で活動することが重要だと訴える。

18年から実施する「市民フリースピーチ」では公募の市民が議場で発言する。目の不自由な男性は、市の避難行動要支援者支援制度が「家族以外の地域支援者2人」としている登録要件を「地域支援者1人」に緩和するよう求めた。家族以外の支援者確保が難しいためで、議会は市長に申し入れ、見直しを実現した。

 二元代表制のもとでも首長と一体の「与党」を強調する議員もいる。「権力を持つ人につくのは無難だ。自分の身を守るのが大事なのだろう。むやみに首長と対立する必要はないが、議員が市民の声を生かす努力をしなければ『議会はいらない』と言われる」 ビアンキさんは強調した。

 (今月の担当・渡辺嘉久) 

[Data]市町村数8割減

 全国の市町村数は1953年で9895だった。「昭和の大合併」を経て62年には3466となり、市町村平均で、人口は7864人から2万4555人、面積は37.5平方キロから106.9平方キロへと増えた。「平成の大合併」後の2010年は市町村数が1727に減り、平均の人口は6万9067人、面積は215.4平方キロとなった。合併市町村では有権者が増え、選挙区も広がる。より多くの支持を得なければ当選はおぼつかない。実際には投票率の下落が当選に必要な得票(当選ライン)の上昇を抑え、旧来の支持層に上積みをすれば当選できる可能性を高めてしまう。幅広い民意を反映するには投票率を高める必要もある。




統一地方選<1 投票率>地方の選挙 一斉に 
4年に1度の統一地方選が3月下旬に始まる。7月には参院選が予定され、統一地方選と重なる12年ぶりの「亥年(いどし)選挙」となる。全国規模で選挙戦が繰り広げられ、私たちは地域と日本の未来を選択する。「18歳の1票」は3月と4月に統一地方選を特集する。地域の暮らしと地方の政治を考えてみよう。

投票率低迷 政治の危機


 統一地方選は戦後間もない1947年(昭和22年)に始まった。内務省(当時)の「總選擧(そうせんきょ)結果調(しらべ)」は「新しい國会(こっかい)を構成し地方公共團体(だんたい)の組織を一新するために昭和二十二年四月に全國的に行われたいわゆる四月選挙」と記している。衆参両院の国政選も同じ4月に行われた。

 戦後日本の政治がスタートした47年の「總選擧」から72年がたち、今春の統一地方選は19回目だ。この間、高度成長という右肩上がりの坂道を駆け上がってきた日本の社会は様変わりした。選挙に対する有権者意識も変化した。

■かつては90%超も

 統一地方選の投票率は51年に都道府県知事選82・58%、同議員選82・99%、市区町村長選90・14%、同議員選91・02%で、いずれも過去最高を記録した。当時の全国選挙管理委員会は「首長及び議員と、この地方選挙に自治の関心と熱意とを示した選挙民との協力によって、地方自治がいよいよ輝かしい発展を遂げる」という強い期待感を示した。

 投票率はその後、基調としては右肩下がりの坂道を転がり落ちる。前回2015年は知事選47・14%、道府県議選45・05%、市区町村長選50・02%、同議員選47・33%に落ち込んだ。

■「無縁社会」を反映?

 首都圏では特に深刻だ。15年統一地方選で行われた41道府県議選の投票率は千葉県37・01%が最も低く、埼玉県も37・68%だった。なぜだろう。

 埼玉大学社会調査研究センターはさいたま市選管と共同で、投票率31・44%だった17年の同市長選について有権者1000人を対象に意識調査を行った(回答率65%)。市内居住年数と投票行動を分析すると「住んで1年未満」の有権者では「投票しなかった」が100%だった。「投票しなかった」は居住年数が短いほど高い傾向があり「20年以上」でようやく「投票した」53%が「投票しなかった」47%を上回った。

 同センター長の松本正生教授(63)は「通勤時間などを考えて、たまたまさいたま市に住む人も多い。地元意識や人間関係が希薄な『無縁社会』の現状が選挙にも表れている。議員選も低投票率で、異なる意見や利害を調整して合意形成する政治が消失の危機にある」と警告する。

(今月の担当・渡辺嘉久) 

[Data]「統一率」最低更新か

 全国の都道府県、市区町村の首長と議員の選挙総数に占める統一地方選での選挙件数の割合を示す「統一率」は、2019年で27.2%と見込まれる。過去最低は11年の27.4%だった。記録に残る統一率は1951年の81.6%が最高だ。55年は46.3%で大幅に下落する。中学校の設置管理などが市町村の事務とされ、行政の効率化と自治体規模の適正化を目指す「昭和の大合併」により、市町村数が51年の約1万100から55年には約5000にほぼ半減した。これにより選挙の時期がずれた影響がある。07年の統一率は29.8%で初めて30%を切った。「平成の大合併」の影響で、新市の市長選などは05年4月に集中し「ミニ統一地方選」とも呼ばれた。






統一地方選<3 話し合う>適正化への道のりは
岩井奉信・日大法学部教授 体系的見直しが必要…岩井 奉(とも)信(あき) さん 68 日本大学法学部教授 

 政党本部が使った政治資金は2017年で789億円に上り、収入の約4割を占める政党交付金314億円には国民の税金が使われていることを学んだ。民主主義を支える政治コストの負担のあり方、「政治とカネ」の問題について識者の意見を聞いてみよう。
民主主義はある意味でぜいたくな政治だ。反対勢力のない独裁と違って、選挙を行い、国民の支持や理解を得る広報活動もする。当然お金がかかる。民主主義を維持するコストを誰が、どういう形で負担するかは難しい。悩ましいのは果たして政治の適正コストがどれぐらいなのかということだ。政治資金の「見える化」で、収支の詳細が公開され「これは必要」「これは不要」と仕分けていけば適正な額も浮かび上がる。

 政治資金規正法が1994年に政治改革関連法として改正されて25年がたつ。対症療法で改正を重ね、つぎはぎだらけだ。全体を見渡して体系的に見直していい。まずは政治資金の現金でのやり取りを禁止することだ。先進国でも認めているのは日本だけだろう。小切手や口座振り込みにすれば記録が残り、お金の出所や流れを追える。政党支部にも早急に手を着けなければならない。政治家個人は企業・団体献金を扱わないはずだった。政党支部が抜け道となっている。実態は国会議員の個人後援会というケースが多く、事実上、政治家個人の企業・団体献金の受け皿になっている。「政治とカネ」の問題は多くがここで起きている。

 問題は後を絶たないが意外と事件になっていない。国会議員なら閣僚や党の役職の辞任、議員辞職などで責任を取っている。こうした幕引きにより、政治とカネの問題を、多くの人は「あの人が悪い」と政治家個人の問題として捉えがちだ。「仕組みが悪い」と政治資金制度の問題として捉えられず、改革への機運を失わせているようだ。

資金の流れを点検…阪口徳雄さん 76 公益財団法人「政治資金センター」共同代表理事

阪口徳雄・政治資金センター共同代表理事国会議員は1人で複数の政治団体を持っている例が多い。所管が総務省だったり、都道府県の選挙管理委員会だったりするため、誰が、どんな政治団体を、いくつ持っているのかを正確に知るのは難しい。これを誰もが一目でわかるようなインターネットサイトを作ろうと「政治資金センター」はスタートした。国から政党交付金を受ける政党本部に始まり、国会議員の政治団体に至るまで、政治資金の流れと使い道をしっかりチェックすべきだ。

 政党交付金は政治腐敗の温床とされた企業・団体献金をやめようと導入された。企業・団体献金は残り、現状は政党交付金との二重取りだ。政党や国会議員がどこから政治資金を受け取っているのかを知ることは大切だ。企業・団体献金には、提供を受けた政党や国会議員によって、政策がゆがめられるという心配がつきまとうからだ。政治資金パーティー券を買うことで、国会議員に資金を提供する企業・団体もある。

 これまで日本では、政治とどう関われば良いのかを考える主権者教育は行われてこなかった。若者の多くは「選挙に行こう」「投票しよう」と言われても、どういう視点で政党や候補者を選べば良いのかわからない。背景には、人前で政治の話をするのは恥ずかしいことだという日本人の意識があるようだ。お金についても同じようだ。「政治とカネ」は政党や政治家を見極める大きな判断基準でもある。政治不信を招くこの問題を解決できる大きな力は世論であり、有権者の1票の積み重ねだ。


<1 今を知る>税金から政党へ助成
2019年は春に統一地方選、夏に参院選が行われる。今の高校3年生は統一地方選と参院選で投票できる。2年生の一部も投票の機会を得る。私たちは政治とどう関わっているのか。そして、どう向き合えば良いのか。改めて考えてみよう。

統一地方選<1 今を知る>税金から政党へ助成  国民1人250円の負担
 「政治にはお金がかかる」と言われる。実際にはどれくらいかかっているのだろう。

 総務省が昨年11月に発表した2017年分の政治資金収支報告書によると、政党本部の支出は総額789億円に上る。内訳は支部への寄付交付金、機関紙発行事業費など「政治活動費」631億円、人件費など「経常経費」158億円となっている。

 こうした支出を賄う最大の収入は政党交付金314億円だ。財源は税金で、毎年の総額は政党助成法に基づき「人口に二百五十円を乗じて得た額」を基準とする。全ての国民が250円を負担する格好だ。もちろん高校生も含まれている。共産党は「支持しない政党にも強制的に寄付されることになる」と反対し、政党交付金を受け取っていない。

■政治改革目指す

 政党助成法は1994年、衆院小選挙区比例代表並立制を導入する改正公職選挙法などとセットで政治改革関連法として成立した。

 政界は自民党長期政権のもとで業界との癒着が進んでいた。88年には値上がり確実とされた未公開株を政官の実力者に譲渡した「リクルート事件」が発覚する。93年には、5億円の違法献金を受け取っていた自民党の金丸信・前副総裁が別の脱税事件で逮捕された。国民の政治不信は募り、同党はこの年の衆院選で野党に転落する。

 腐敗と決別するため、改正政治資金規正法は癒着の温床とされた企業・団体からの献金を制限し、政党助成法で政党交付金を創設した。

■「政治とカネ」は…[Data]企業献金は規制 個人献金も低迷

 政党交付金には賛否両論があった。当時の国会審議で、野党だった自民党議員は「とんでもない話だ。オギャーと生まれた赤ん坊だって250円出さなきゃいけない」と疑問視した。与野党協議による総額減額には「バナナのたたき売りじゃあるまいし、国民の税金に対する真摯(しんし)さがない」との批判も聞かれた。

 対する細川内閣の閣僚は「政治をきれいにしていくための一つの大きな柱だ」「政党の経費を民主主義のコストとして賄う」と答弁した。細川首相も「政治浄化のためコーヒー1杯分の負担を」と国民に理解を求めた。

 与野党合意の政党助成法成立から25年がたつ。国民が負担する民主主義のコストで政治は浄化されたのだろうか。

(今月の担当・渡辺嘉久)

 企業・団体献金は1990年、447億円に達した。政治資金規正法の改正で、政党と政党が指定した政治資金団体、政治家個人の資金管理団体以外への献金が禁止され、95年は165億円に減少する。資金管理団体への献金が禁止されると2000年には54億円となった。17年は27億円だ。個人献金は1990年に113億円を記録して以降、減少傾向にある。2000年に初めて企業・団体献金を上回ったが85億円にとどまった。17年は45億円だ。






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